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Vol.59
藁をもつかむ状況でも家族には話せないの?
 

 


●藁をもつかむ状況でも家族には話せないの?

 
 

 急激な経済悪化によって売上が5分の1以下に激減したことによって、サラ金から借りては返しという自転車操業状態の資金繰りが行き詰まったという切羽詰まった相談だった。
昨年の9月頃までは売上金の中から返済に充てるための資金が、十分ではないが何とか捻出できていたので、そのまま売上が推移していれば順調に返済も出来るはずだったのだという。
  妻に渡していた家計費も先月から途切れているが、妻には「入金が遅れている…」と説明しているようなのだが、会社の資金繰りの本当のことは言っていないのだそうです。
  売上が5分の1しかないのだから“入金が遅れている…”のではなく、“入金のアテがない…”のが現実なのに、妻にはその事実を告げることが出来ないまま4ヶ月間悩み続けているのだという。

 

●自分では見たくないのだろうか…現実の姿を…

 
 

 初めてお会いしたとき、その事業主は過去の栄光や実績を自慢げに蕩々と語ること40分。
「かつて、上場会社で多くの実績を上げてきた自分が、なぜ“こんな処”に相談に来なければならなくなったのか自分でも考えられないことだ……」という。
「ところで債務の状況は……?」と尋ねてみると、ようやく一枚のメモ書きを内ポケットから取り出してシワを伸ばしてテーブルに置いて差し出してくださった。
テーブルに広げた“メモ書き”は罫線で整理されているわけでもなく、私のノートに表罫を作ってそれに書き写し、銀行、サラ金、などから借り入れた債務の全体像が把握できるようになってきた。
すでに事業資金を借り入れていた銀行からは信用保証協会に代位弁済の手続きについての書簡が送達されてきているという。更に、サラ金からは、携帯電話に一時間おきに電話が入っているらしい。

 もしかしたら、メモ書き以外からの借入があるのではないだろうかと尋ねてみたら、案の定、街金融と友人から借りているとのことだった。
メモ書きの債務額を集計すると4000万円位だったのだが、追加分を含めると5000万円を超え、事務所に戻らなければ分からないという買掛金などの未払い残の金額を集計すると7000万円近くになる様子だ。

  ●カウンセラーの相談時間は…「7−11」?

 
 

家に戻ったら、この事実を家族に説明することを勧めてみたが、なぜか歯切れが悪い受け応えであった。
「まず、すべての債務を書き出しておいてください。」「ご家族に説明が出来ないようでしたら、ご家族とご一緒に事務所にいらっしゃったら…。」「分からないことや不安なことがあったらいつでも携帯電話にご連絡ください。“7−11”の体制でいますからね…」というとホッとした様子で帰られた。
昼間は仕事に飛び回り、夜になると資料整理にかかっているらしく、事業計画書の作り方などこと細かく、夜11時までに間に合うようにと携帯電話にかけてくる。
債権者からも頻繁に電話がかかってくるらしく、朝になるのを待ちかねたように通勤途中の車にいる私の携帯電話にかかってくる。
思い起こせば23年前の倒産直前の自分もそうであったように、自分に分からないことがでてくると確かめるまで不安でならなかったのだから、当然のことだと理解できるが、分からない人には非常識としか思えないのは当然だろう。
リスクカウンセラーとしては、むしろ、連絡が途絶えることの方がチョット心配でならないという面もあります。

 
  ●妻には理解できないという…オトコの行動?  
 

「事業が赤字続きなのに、いつまでも諦めずに仕事を続けるオトコの行動が理解できない……」という話を聞かせていただいた。
赤字続きだった会社を閉じてサラリーマンに転身した夫がお給料を貰ってくるようになってから、資金不足で毎月預金を取り崩していた日々とは、生活そのものが驚くほどガラリと変わってきたし家庭に笑顔が戻ってきたという感動的なお話を語ってくださいました。
“不撓不屈”の精神というと格好のいい“オトコ”の頑張る姿を思い浮かべますが、その反面では、諦めが悪く、優柔不断で決断力に欠け経済的思考とは大きくかけ離れた行動をとる不思議な「動物=オトコ」として見えてくるのは男として気恥ずかしいものを感じつつも、分からないでもない気がしています。

「見切り千両」という活きのいい江戸っ子を連想する言葉は、現代女性から決断の出来ない男性達に贈る言葉となっているのかも知れませんね。