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Vol.45
ガンダムに魅せられた青年との出会い
 

 

 

●ガンダムに魅せられた青年との出会い

 
 

広い自宅に一人で住み、気ままな生活をしていました。

周囲の人は、気ままな自由人としてうらやむ声もあったが、
定職に就けないでいた彼は家に引きこもり、
話す相手もないまま鬱状態になっていたようです。

話し相手もいない青年は、
気晴らしにパソコンの向かいガンダムと出会ってしまった。

時々外出するときの行き先は、
お弁当を買うためのコンビニ、ガンダムを買うために近くの模型店に…。

やがて…毎日のように模型店の出入りするようになった青年は、
僅か3ヶ月の間に100万円以上の買い物をしていました。
模型店の店長も初めの内は上客の来店に喜んでいましたが、尋常ではない買い方をする青年に声をかけ、クリニック通いをしていることを知ったというのです。

青年の異常な買い物はその後も続き、
余りにも生活が乱れていることが気になった模型店の店長からの紹介でその青年と会うことになりました。

 

 

資産があるからお金が借りられた

 
 

 ガンダムに魅せられた青年は、顔は青白く、髪は手入れができていなく女性のように長い。終始うつむき気味で、話していて私と目が合うとすぐ逸らせてしまう。

肩からタスキ掛けしていた大きな鞄の鞄の中は、
ガンダム関係の雑誌とショップの地図のようだった。

 
ガンダムに詳しい知人に来てもらい、
たまたま居合わせてようにしてしばらくガンダム談義にを続けてもらった。

 
本人も、自分では止められないガンダム買いも、
これではいけないと思っていたようでした。

ダラダラと続いたガンダムの会話が3時間ぐらい続き、
ようやく本題の話に触れられるようになってきました。

どうしてそんなにも買い物が続けられるのか…、
そのお金はどうしているのか…、
どうやって生活しているのか…、
と買い物依存症で苦しんでいる人の事例を話ながら少しずつ青年の実情を引き出すことに成功しました。

 
「実は…、サラ金からお金を借りていて、祖母から相続したアパートに抵当権が設定されているので、どうしたらいいのか分かんなくなってしまって………」

そう言ったまま、
青年はしばらく沈黙がつづき、
自分の胸に詰まっていた固まりがようやく吐き出せたという安堵感なのか、
私から訊かれる次の言葉を待っているかのようにも思えました。

 
サラ金からの借り入れがどうなっているのか矢継ぎ早に訊きたいところだが、
じっと耐えて少しずつ話を進めていく。

 
「貴方の名義になっている不動産を持っていたから、サラ金でお金を貸してくれたんだね…?。」…「サラ金から何か言ってきているの?」…
その問いに対して、鞄の中をゴソゴソ何かの探し始めるという状況で反応してくれた。
 
B5サイズのスプリングノートには
サラ金からの借り入れリストが整理されているらしく、
私に見せようかどうしようかとためらう様子。

 
「整理できているの…?」と訊いてみたら、
テーブルの少し遠い位置にノートを広げてくれた。

身を乗り出すようにしてのぞきこむと、
5社ぐらいのサラ金の名前が並んでいて、
抵当権を設定しているという会社が850万円とダントツの金額で、
その他は50万円、70万円、40万円、と
最近借りたらしい20万円と…。

 
「自分ではどうしたいと思っているの…?」と、
意識的に小さな声で訊いてみました。
 
「何とか仕事を探して返済したいと思っているんですけど、自分にあった仕事がなかなか見つからなくて…」と、
小声で返ってきました。
 
定職がないから返済のメドが立たない…、
返済できないから新たにサラ金から借りる…、
何処にでもあるお定まりの話ですが、
そんなことを繰り返していたらしい。

 
ガンダム買いが始まった当時は、
祖母が遺してくれた預金があった。

その取引銀行のお誘いで銀行系列の名前のつくクレジットカードを作ってもらい、
口座からの引き落としで購入していた。
 
預金残高がある内はよかったのですが、
1500万ほどあった預金も少なくなるとさすがに不安になり、
サラ金との出会いが始まったようです。



  止めてくれる人がいないから…それが言い訳?
 
 

後日、青年の自宅に訪問することになりました。
青年が住む築40年以上の一戸建ての家は、
玄関を入ると古新聞や雑誌、
通販のカタログなどが埃にまみれて積まれていて、
足の踏み場もない状態でした。
 
薄暗い台所のテーブルの上には、
食べ終わったコンビニ弁当や食べ残しのパン、
流しには洗ってない鍋やフライパンが積み上げられている。

 
2階にある青年の自室に案内してもらった。
コタツの上には
パソコンとプリンタ、
ガンダムの本、
ミニスカートの女の子のフィギア、
隣の8畳間には…
ガンダムのプラモデル。
 
「いつ頃からこういう状態になつたの…?」
「もう、いい加減にガンダムと縁を切ったら…」と、
思わず言ってしまいました。
 
「やめられない…止まらない…カ〜ッパえびせん…!の世界を通り越してるね…」

 
半分あきれはて…思わず青年に向かって言うと、
「僕には…止めてくれる人がいないから…」

自宅とアパートという不動産があるから、
厳密にはまだ債務超過の状態ではないけど、
このまま進んでいけば債務超過になることは
火を見るよりも明らかです。

 
リスク・カウンセラーとして、
まさか…ガンダムと戦うことになろうとは
想像もしていませんでしたが、
その後…4年間、
青年と共にガンダムと戦うこととなり、
青年は…看護師となるため学校へ通うことになりました。