「何故だ!あんなにお金があったのに…。自分の預貯金もこのままでは底をついて全て無くなってしまう。」
専務や妻の反対を押し切って始めた事業であるだけに、社長としては何としてでも赤字のまま店を閉じるわけにはいかず、資金繰りの合間を見て東京と神戸の間を頻繁に往復するようになっていました。
売上アップを模索しながらも、いつの間にか店長の行動を責めるようになっていたころ、神戸店の店長から、
「このお店をやってみたいという人がいるんですけど、一度会ってみていただけませんか…」と言う連絡が入った。
リスク・カウンセラーに相談することになったのはこの時点からでした。早速、スクリーニングの開始です。
部門別に売上、経費、原価管理、などの資料から、8年分の資料を精査して過去実績の分析を行いました。
あえて3年分としなかったのは、社長の話を聴いていて新規事業を始める前と後の違いを明々白々にしてあげなければ十分な理解が得られないと感じたからです。
もちろん、「このスクリーニングの作業は専務には内緒にすすめていきましょう…。結論が出たら社長の考えとして今後の方向性を専務に切り出してはいかがですか?」と社長に言うと、自分の意図をくみ取ってくれたとばかりに社長との信頼関係が一気に出来上がったようでした。そして、やっとのことでしたが奥さんにも会わせてもらいました。
スクリーニングの結果は、当然ながら不採算の部門に焦点が絞られてきます。不採算の事業なのですから切り捨てる提案をすることになりました。
しかし、それがかんたんに結論を出そうとはしないのです。
社長としては、自分が手塩にかけて育ててきた店舗であっただけに、店長に言われても納得が出来なかったようなのです。「あれほどまでしてあげたのに…、引き継ぎたいという人と店長はどんな関係なのか…」という想いが強く、冷静なほどの店長の態度に「裏切られた!」というような気持ちになっていたようです。
これほどまでに資金繰りが苦しくなったのは、店舗を借りた際に発生した「入居保証金」でした。一店舗あたり約3千万円の資金が眠っているわけですから、いまから直ぐにでも店舗のオーナーに対して「解約通知」を出しておいて明け渡し月までの賃料を支払ったとしても、出費する痛手は明白になります。
ましてや、その店をやってみたいという人がいるなんて最高の条件です。店長はこのまま働ければ退職金だっていらないと言っているというのです。入居保証金も店内の改装費用も8割方は回収することが出来るのです。
ためらう社長に…
「店長に言い難いのであれば、私から話してあげましょうか?」と言うと、先ほどまでの苦しげな思案顔はどこへやら…、ホッとしたような顔立ちになって返事が返ってきました。
「そのようにお願いします。いずれ私からも話しておきます…」
ということになりました。正直、ちょっと順番が違うだろう…とは思いましたが、それなりの契約書類や文章を準備して、店長に会うことになりました。
店長に会うと、あっさりしたもので…
「今回の話は社長にとってもいい話だと思っていましたよ…結論が出るまでにこんなに時間が掛かるなんて…信じられない…。商売はスピードが大事ですから…コレでいいんですよ!」と言っていました。
…ということで、1号店と横浜店についても新たな買い手を見つけることになりました。
「見栄」をはって経営していると四角いものでも丸く見えてしまうことになりかねませんね。 …怖いことです。
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