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Vol.29
会社を倒産させずに乗り切りたい…

     
  ●会社を倒産させずに乗り切りたい…
 
 

さいたま市から67歳の社長が相談にいらした。友人からの紹介だった。3期分の「決算書」と「債権者一覧表」を準備していた。直近の試算表はないという。直近の決算書といっても10ヶ月も前のものだった。
  会計事務所に顧問料を支払っていないので、伝票はとりあえずファイルに綴ったままの状態のようだ。
  債務金額が約8000万円ある。その内訳は…金融機関が4800万円、ノンバンクから1200万円、サラ金から500万円、親戚から400万円、友人から300万円、暴力団の高利金融が200万円、約2ヶ月分の買掛金残高が…となっている。
  前期の売上高が5000万円。粗利益が20%。現時点での月次の実績は、売上高=400万円、借入金返済額=80万円、営業経費=150万円。
  もう…1年前から、金融機関からの借入ができない状態だという。さもあらん…と思う。
  社長は「先生…今日もお客様に600万円ぐらいの見積書を出してきて…今月の末には受注になるんですよ。何とか頑張って会社を続けたいのですが…どうしたらいいでしょう…」と云うのだ。

 それでは…と、持参してきた資料を参考にして聴き取りを始める。だが…せめて半年分の資金繰り表を作ろうと、月次の経費と弁済金額を記入を済ませ、具体的な受注計画を記入する段階で作業がとまってしまったのだ。
  これから営業活動をすれば売上は最低でも500万円は確保できるというのだ。粗利率が20%の仕事だというのだから粗利益は100万円です。
  「社長!500万円の売上ではこの会社は赤字ですよ…。750万円の売上金額でやっとトントン。しかも…返済はゼロじゃなくては続けられないですよ…」と、ここで損益分岐点を分かり易くノートに書きながら説明する。

 
     
  ●高利の街金融から借入は地獄への道  
 

 今月の末には暴力団関係の高利金融の200万円を返済しなければならない。利息を入れると220万円だ。返済は月末に入金する売掛金から引き当てる予定だという。
  返済して残るのは150万円。その他の返済が80万円。仕入先への支払は300万円を超えているというのに…。月末で230万円不足だ。
  「自分たちはどうやって食べていくの??」と尋ねると…「だから今見積書を出してある前金を貰える仕事を決めたいんです…」ということだった。

 「街金融からの借入返済さえなければ何とかなるのだけど…」と、うつむきながら社長は小さく呟いた。「矢印(暴力団)から借り始めたのはいつ頃からですか?」と頬に指を当てながら聴いてみる。「1年前に葉書が送られてきたので…。初めは20万円ぐらいしか借りていなかったんですけど…。」借り手は返すといったことを何度か繰り返しているうちに、次第に借りることが当たり前になってきてしまったようです。
  ある時に返済ができそうにもない事態が生じて、事情を説明しにいったらすごく怖い目にあって…何とかしなければと、更に別な金融を紹介して貰ってそこから借りるようになっていったようだ。
  見かねた息子もサラ金から借り入れしてきた。初めは1社から20万円ずつ借りて100万円のお金が準備できた。社長は喜んで、とりあえず返済と仕入先の一部に支払ができた。
  妻も協力していた。妻はサラ金からの借入は1社しかなかった。しかし、その代わりに信販系のカードを持っていたのでクレジットカードを利用していた。買い物ではなく、生活費をキャッシングして埋めていた。それにしても最長でも45日後には決済しなければならなくなってしまう。
  息子も妻も返済が滞らなければ繰り返し借りられるので、それぞれ必死にサラ金の返済とクレジットカードの決済を繰り返してきた。
  息子は少しずつ借入可能額の枠が広がり…当初は20万円だったのが30万円になり…50万円になり…と借入金額が膨らんできた。
  「矢印」から借入するようになった大きな要因は、その決済をするためだったと言うことのようだ。


 
  ●『維摩の一黙(ゆいまのいちもく)』  
 

私は、銀行が融資を拒むときは「天の声」として受けとめてほしいと常々思っている。
  金融機関からの借入ができなくなると、何とかして外の方法で資金を調達しようと考えてしまうのが中小企業経営者が当たり前のように考えている間違った行動なのだ。親戚や息子や娘、友人などを連帯保証人にして借り入れするという考えがそもそも間違っている。
  金融機関が融資を拒むには、それなりの根拠があるからだ。
  融資を拒まれた時には「社長!もう一度経営を見直してくださいよ…」というメッセージが送られてきているのです。それでも融資を求めると連帯保証人を要求されます。その時のメッセージは「もう一度会社の財務内容を見直して、間違いなく返済のメドが立つかどうかを十分に検証してください。そして、それを第三者の連帯保証人の方にチェックしていただいて問題ないかどうかの意見に耳を傾けてください…。」というものだと受けとめてほしいのである。
  金融機関の担当者も、中小企業経営者から融資の申込みがあったときの態度として、単に商売として「融資する」「融資をしない」というのではなく、心からそのメッセージが伝わるようにするにはどのように表現し、どのようにアドバイスをするかを考えてみて欲しいと思う。
  断るのは簡単だ。金融機関が断った後に中小企業経営者がとる行動が見えているはずなのに…。

 『維摩の一黙(ゆいまのいちもく)』という言葉がありますが、どうしたら中小企業経営者の「心」に伝えられるかが金融マンにとって大きな課題でもあると考える。