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Vol.90

◆破産申請には費用がかかるという現実
 

 


◆破産申請には費用がかかるという現実


 
 


「先生!もう限界です。やっぱり破産する道しか残っていないようです…」と3年ぶりに来社された経営者から細かい事情を伺うことに…。

 直近の資金繰り表、試算表、現預金一覧表、売掛金リスト、債権者リスト、そして手元にある現金、生命保険の資料などをご持参していただくわけだが、肝心なのは『破産申立の費用』が準備できているかどうかなのです。

 以前お会いした時にも、その経営者に何度も「トコトン資金をつぎ込んで一銭もなくなってからでは破産することも厳しくなりますよ…」と言ってありましたが、3年間に一度もご相談もなく何度も気になり電話をしていたのですが「何とか頑張ってますから今は大丈夫です…」と「今は大丈夫でも…駄目になってから慌てても遅いですよ…」と、相談に来てほしいことを促しても一向に反応がないので忘れかけていました。

 事務所にいらして開口一番が「先生!もう限界……」との言葉に嫌な予感は的中していました。

 手元にある現金はわずか20万円。試算表を見ると会社の売掛金は1200万円近く計上されていましたが、売掛金一覧表の合計金額は850万円。

 気になるのは「未払い消費税」の存在です。案の定ありました。前期分の300万円が計上されていることを確認できましたが、その他にも社会保険料や事業税の未払金もありました。

 20社ほどある売掛金の入金予定日を細かく確認してみると180万円の大きな金額の入金は3ヶ月後になるということで、入金日まで会社を維持させることが難しいとなると、破産申請費用をどこから捻出するかが大きな障壁になってきます。

 買ってくれるお客様があれば200万円ほどになる商品と、部材があれば完成品価格で300万円分の仕掛品があるとのことなので、社長と一緒に商品からお金を捻出する段取りを立てることにしました。

◆値引きをして現金回収に成功、破産できる!

社長には取引先に電話してアポを取ってもらうことにして…。そして社長には…
「ここは勝負どころですよ!見栄張っていい滑降しないで…、すべての事情を話して協力してもらうこと」と
「買ってくれるかなぁ〜」
「前倒しで支払ってくれるかなぁ〜」
と社長は弱気の発言をしたから
「これからは勝つためのゲームだと思って…。土下座を覚悟で交渉してきてください!」
そう言いきって、仕掛品を完成させるための段取りを手伝い始めました。

 その日から2週間後には仕掛品は完成し、納品することになったのですが、売掛金は20%値引きして約600万円回収し、在庫商品と完成した商品とを合わせて400万円になり、1ヶ月で1000万円の現金を準備することが出来ました。

 一人だけ残った従業員に予告手当を含む2ヶ月分の給料を支給し、消費税の一部として60万円を納付し、ライフラインと家賃を支払い、手元には予想を超えた現金が残ってホッとした様子の社長の顔は、一月前の顔とは全く別人の顔になっていました。

 これで弁護士に支払う破産申立の費用も準備できたし、仕掛品を完成させるために買った支払いを済ませて、ようやく「これから先はゲームだよ!」と言った言葉が理解できたようでした。2週間後、弁護士事務所に同行し弁護士費用を渡し委任状に署名したあとの安堵した様子は晴れ晴れとしていたのが印象的でした。

 「パンをかじり牛乳で流し込みながら仕掛品の段取りをしていたことも、先生にたくさん話しを聞いてもらえたことも…今ではいい思い出になりました」と、今でも会うたびに懐かしそうに話してくださいます。

 元気に再起したその社長は、いまでは慎ましく事業を拡大せずに淡々と楽しそうに続けています。