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Vol.81

●数字を開示せずに企業再生の相談をするの?
 

 


●数字を開示せずに企業再生の相談をするの?

 
 

 相談者との初めて面談時間は、相互の信頼関係を創り上げる為の大切な時間で、自分の中ではその時間を“ラ・ポール・タイム”と呼んでいます。
 “ラ・ポール”とは、カウンセラーが相談者またはその他の人々との間で、理解と相互信頼の関係を成立させ維持する過程において、相手の反応を引き出す能力をいい、相談者の想いを受け止め(受容)、相談者との信頼感を創り出し、心の結びつきを強くすることと言われています。
 
 しかし、企業再生が必要な経営者の周辺環境を考えると、リスク・カウンセラーは“ラ・ポール”の形成に多くの時間をかけることができない場合の方が多いと思います。
 横軸(時間)と縦軸(成果)の関係で表現するならば、より短い横軸で大きな縦軸を生み出すことが、求められているわけですから、身の上相談的な一般的なカウンセリングに比べると横軸(時間)の制約がかなり大きくなっています。
 相談者の出す結論が一日遅れることによって、債権者や取引先、社員などとの関係が著しく変わってくることを考慮すると、カウンセリングに入る前の事前の準備がかなり大切になってきます。
 企業再生を中心とした相談に来るクライアントなのに、決算書を全く提示せず、言葉で示す数値も曖昧模糊としたもので、それでも何とか会社を立ち直らせたいと思う気持ちは人一倍強くもっていることが強く感じ取られるようになっています。
 財務資料の準備がしっかりしている経営者の相談は、データ分析によって明らかになった共通テーブルができるので、相談者と初対面であったとしても、それは囲碁や将棋の対局のように同じ盤面をみながらの会話であるので、お互いの人間性の理解度は至って高く 驚くほど順調な対話になって、問題解決までの結論を導き出すのに多くの時間を要しないで進みます。
 ところが、1〜2週間後の資金繰りのメドが立たない状況なのに、テーブルの上には資料1枚提出することもなく、瀕死の状態から脱出したいと願う経営者もいます。
 緊急事態が見えているから相談者の話を聞き書きしながら会社、家族、親戚、取引先などの相関図を書き上げて、共通の認識記録を書き上げていくのですが、前者の場合に比べて3〜5倍の時間を費やすこともあります。
 言いようによっては、そんな経営者だから成る可くして招いた結果だと思うと、同情の余地はない。


 

●願望と行動の乖離に気づいていない経営者

 
 

 できることならば、相談に来社する企業経営者の総ての人を再生へと導いてあげたいと思っているのですが、2〜3時間の相談時間が終わり帰り際に交わす会話で再生できる経営者と、恐らくそうはならないであろう思われる経営者の明暗の状況が歴然とした違いとなって見えてきます。

 再生できる経営者は、再生させたい願望の目標点を明確にし、経営者の行動姿勢がその目標に沿って堅実に行動をとっています。何度も自分に足りない点を聞き直し、メモをとり後日それを文書化してFAXしてきます。
しかし、再生できない経営者は、会話の中で問題を指摘されたことに対し憮然とし、帰り際の挨拶もそこそこにして、エレベーターのドアを急いで閉めるのが分かります。
まさに、「経営を続けていきたい」と言う願望と、再生に向けて一つ一つの行動を目標に沿って堅実に励行する「経営者の行動」との乖離に気づいていない経営者は、自分のやってきたこれまでの行動が正しいと思っているわけだから変わりようがなく、今までの延長線上にある破綻への道を辿ってゆくことにも気づかないのです。
リスク・カウンセラーとしては、どんな相談者に対しても歯に衣を着せることなく、事実を事実のまま、感じたことを感じたままに伝えることが大切であると信じています。