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Vol.118

 
 
●事業再生より認知症経営者の家族問題か・・・

 リスク・カウンセラーとして20数年。現在、数人の認知症経営者とそのご家族から、事業再生のご相談を受けています。
 それは一般的な「事業再生」の手法では解決できない幾つもの問題をかかえています。

◆63歳の経営者は、歩行さえも困難な状況になっていて仕事は休業中、妻は、家計を賄うため早朝から夜遅くまで働きに出ている。妻の健康状態も精神的な疲労も重なり、倒れるのではないかとかなり深刻な状況になっていました。

◆85歳の女性経営者は元気そのものなのですが、従業員や会社に出入りする信金職員や取引業者に対して『あの人にお金を盗まれた・・・・』と騒ぎ立てるため、従業員は辞め、取引先の担当者も寄りつかなくなっていました。

◆81歳の経営者は、しばしば取引先との商談の約束を忘れたり、いま話していた電話の相手の名前を忘れたり、必要もない商品を過剰に仕入れたりすることが多くなり取引先や社員からも苦情の続出。妻や子供たちが引退を促しても一切聞き入れる様子もなく、困惑の毎日が続いていました。

 「事業再生」の相談ということよりも、家族では手に負えない「社長の行動を何とかしてほしい・・・・」という問題で、時には医師や法律家の手を借りなければならないこともありますが、特に法律家に相談することによって、仲が良い家族の思惑とは異なる方向に事態が進展することもあり、いちがいに法律家に相談を持ち込めば良いというものでもないようです。
 なぜならば、医師の検査により明らかに「認知症」と診断結果が出ている場合と、「もしかしたら認知症か・・・・?」という程度の、高齢者にありがちな諸症状が観られるという程度のものなのかによって、家族のみならず、相談を受けたリスク・カウンセラーにとっても重要な岐路でもあるからです。

●増加する認知症経営者に想いが届くか・・・・。

 誰もが、自分が認知症であるということを認めたくはないものですが、次のような症状に思い当たることはないでしょうか。

・日常的に利用している慣れた道で迷ってしまう
・持ち物を行った先で置き忘れることが多い
・自分で片付けたものの、その場所を思い出せない
・今朝の食事メニューを思い出せない
・直前に話してた電話の相手の名前が出てこない

・・・・何だか自分にも多少なりとも心当たりがありそうな・・・・なさそうなことばかりですが、経営者の場合には深刻な問題につながる入り口にさしかかっていることとして捉えておかなければならない状況です。

 経営者の場合、経済活動におけるさまざまな責任があることは誰もが理解できるのですが、認知症の症状が強くなってきたときには様々な法律行為(会社法による手続き行為、商取引、贈与、相続対策、不動産売買など)が制限されることになります。

 経営者自身が認知症の自覚がないような場合は、現実には自分で築き上げてきた会社の代表を辞任するという行為は、余程のことがないと納得できないようなのです。

 リスク・カウンセラーは社長の繰り返し話す創業当時からの苦渋の時を乗り越えた話や、長い人生模様に込められた想いを繰り返し何度も何度も聴き留めることを何よりも大切にしています。

 ビジネスの場面と大きく異なるのは、論理的に説き伏せるのではなく、時間をかけることを惜しまず必然的にそうなる(代表を辞任)ときを待ちつつ、その経営者に対する私からの想いを伝えるために情報を提供することもあります。
 『いつかは自分も・・・・??』と頭をよぎりつつ問題解決に当たっています。