●“思わせ振り”の言動で人を操る…常習犯?
人は自分にはない何かを持っている人に興味をもち、どこかに感心の目を持って見ていることでその人を見る目に“もっと知りたいビーム”のようなものが出ているのかも知れません。
ある会合で知り合ったA氏、穏やかな口調で話し上手、相手のB氏のことを褒めまくる。
A氏曰わく。「いま、新しい事業に取り組んでいて、B氏のような人と出会いたかったのだ…」と事業の内容を話し始める。名刺入れから、有名企業の幹部や2代目社長の名刺を取り出してトランプゲームをするかのように並べてその一人一人との関わりを物語のように説明していく。
分厚い名刺入れの殆どが他人の名刺、その名刺の人物が自分のブレーンだと言わんばかりの話し方をしているが、何度も使い回しているようで名刺の角が丸くなっている。
「いま計画している新事業ではタイアップしてほしい…。」と、B氏が興味を引く話題を巧みな話しぶりにB氏はA氏の事業に引き込まれていったという。「数年後には夢のようなパラダイスが……」と思わせるような話題に、気がつくと数十万円から始まりいつしか数百万円の資金協力をしていた。
B氏に対し、「貴方のような素晴らしい人と出会えて本当に良かった。新事業の会社設立の際は、ぜひ株主で、役員として…。私がサポート役に…」と株式公開までのストーリーが具体的に描かれていた。
「事務所を借りる資金が準備できないので困った…」 「必要なパソコン類のリストは…」「電話は…」「名刺は…」「バッジは…」と、買う資金を持ち合わせていないと言われれば…、何とかしてあげれば設立したときの立場は有利になると考えたB氏は、いつしか積極的に協力をするようになっていた。
一向に事業が進まないことを不審に思ったB氏の態度に気づいたのか、名刺入れにあった有名会社の人々の名前を再び連呼するようになってきた頃には、B氏は2千万円以上の資金を提供していた。
その頃からA氏は、新事務所に毎日来ていたのが、週一になり、2週に一度になり…、やがて、備品が少しずつ無くなってゆく。
問い質すと、「新事業を発展させる為に、更に新しいパートナーを見つけたので、しばらくそこに拠点を移して、体制を作るから…。」…と。
しかし、A氏は、それらのブレーンとの関わりや行動を詳しく話そうとはしない。いつしか携帯電話の連絡も取りにくくなっていく。
●次々渡り歩く詐欺まがい、犠牲者が馬鹿なのか…
後に判明したことは、A氏の“思わせ振り”の巧みな言葉には、魅力的な事業内容を応援したくなるように感じさせる不思議な“魔力”があったという。
だが中には、融資の保証人になった人や家を担保提供した人など、B氏と出会う前のX氏、Y氏も、B氏との後に出会ったC氏やD氏など何人もの人が騙され、C氏は数千万円の保証債務によって破産したというから驚きである。
A氏の手口は、X氏との間で生じた借金はY氏への“思わせ振り”の話で資金を引き出してX氏に対して一部分だけを穴埋めをする。Y氏との間で生じた借金はB氏から、以降、C氏、D氏とドミノ倒しのように繰り返していく。 『思わせ振り』国語辞書によると“気があるかのようなふりをするさま。自分がその人に好意を寄せている、と、当人に期待させるような様子。”とある。
まず相手を褒めて接近し、自分だけが受け入れられていると思わせてその気にさせる。自分とパートナーとなってくれれば、自分のブレーンにも紹介できる。
「この事業は貴方とだけ組みたい。ほかの誰とも組むつもりはない」と言っておきながら、次から次へと新しい人間が目の前に現れると、またまたその人との関係が深くなる……。つまり、A氏にとって、B氏はハッキリさせないままの関係で“間に合わせに過ぎない”ということになっていたのである。
相手の“思わせ振り”な言動に惑わされないようにするには、自分との関係をきちっと進める気があるかを、冷静に観察するべきなのですが…。
誰もが好かれて悪い気がしない、頼られると何とかしてあげたい…と思う。
経営者としての好奇心、包容力、そして優しさにつけ込む“思わせ振り”の言動に対しては、術に填まらない警戒心と、それを見抜く眼力をもっていないと経営を危うくすることさえあると心得たい。自分の利益のためであれば、生き方さえ変えてしまう人間がいるのが悲しい…。
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