大田区のM社長は、金融緩和の恩恵を受けて4年前に新規の借入ができ、それからは資金繰りも少しずつ好転してきたことでホッとしていた。
取引先からの値下げ要求が年々厳しくなってきたこともあり、予てから設備投資の借入残高の完済メドが見えてきたら老朽化してきた設備機器を、2倍ぐらい稼働効率がよい機種に買い換えたいと計画していた。
安い中古品の購入も検討はしてみたのですが、競合他社の設備よりも優位な設備を持てば受注内容も大きく転換できるということを考えていた。
設備機器メーカーの協力も得て取引先の要求しているスペックを十分すぎるほど満たすことができる仕様の機器を選定し、4000万円の設備を購入する決断をし、M社長は妻と長男を連帯保証人にするという条件でリース契約書に署名したのが8月末のことだった。
これから8年間のリース料の支払いを考えると多少の不安もあったが、機器メーカーのメンテナンス期間をすでに超えている状況では、いつ壊れるか分からない設備で仕事をしている不安の方が大きかったので、決断に誤りはないと確信していた。
ところが昨年9月15日のリーマンショックを契機に2ヶ月後には取引先からの発注量が5分の1に激減してしまった。当初は「お客も景気回復の様子を伺いながらの発注調整をしているからなのだろう…」と楽観視していたが、一向に注文が従前の状態に復活する様子がうかがえない。
やがて年末が近づく頃になると、同業他社の不穏な噂が耳に入ってくるようになってきた。その状況はM社長の会社でも目につくようになり不安がふくらんできた。急遽、創立時から数年前まで取引のあった異業種のG社の社長に面会の申し入れをして、幸いにも合う機会が得られた。
会社の現状を話し少しでも仕事を出してもらえるように頼んでみたが、そこには自分が期待していたような仕事量はなく、激減した売上を回復するための突破口にはならなかった。
売上の回復がないまま年を越し、取引先に新年のご挨拶に行っても暗く冷たい空気が漂っているような気配がするほど例年のような活気がない。
リースの支払額は従来の支払額と合わせると150万円を超えている。中小企業向けの緊急融資制度で運転資金を借りたがこのままではすぐに底をつく。
今までのように仕事さえ入れば、リース料の支払いの心配などなかったのに、今や、ほとんど稼働しない設備機器のリース料の支払が、これほどまでに負担になるとは考えてもいなかった。
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