Vol.6「悩みや辛い想いは…話して吐き出すと元気になれる」
     
  悩みや辛い想いは…話して吐き出すと元気になれる  
 

俯き加減に詰まるような呼吸でポツポツと話しをはじめ…辛かったことを思い出したのか暫く言葉もなくしばし沈黙のひととき。ふたたび、真剣な眼で一気に話し始めたかと思うと…惜しさの余りか涙を浮かべる。悲壮な面持ちで相談にいらしてから約3時間。
「もうお話しすることはありません…。」初めの緊張からすっかり解放され、3時間前の顔面蒼白の状況とはうって変わった笑顔で云います。
「ず〜と辛かったんです。夜も眠れなかったし、周囲の人から話しかけられても、話の半分はうわの空でした。いつも胸の当たりのザワザワした感じだったのが…これでスッキリしました…。」と。
来訪された時は、背を丸めてかがみ気味であった方がうって変わったように背筋をシャンと伸ばし、朗らか…とも感じとれる明るい声に変わっているのです。
それは安堵感なのでしょうか…ご自分なりにこれから先にとるべき行動が頭の中に具体的に整理できたのか、眼をキラキラ輝かせ素晴らしい表情となって帰られる。
人は大きな障害に直面した時、それが一度でも経験していたことであれば慌てることもなく解決することができる。しかし、問題が自分の力ではどうにも解決できないと感じた時には悩み、戸惑い、怯え、苦しみ、恐怖心となって心身を蝕むことさえあるという。

 
     
  誰もが初めて体験する前例のない出来事だった。  
  戦後の高度成長が頂点に達し、個人が好むとか好まないとかに関わらずにバブルが膨れあがり、世の中はいつの間にかイケイケ・ドンドンのムードになっていた。所有資産の値上がりや社会構造の変化などで、それまでは思いもつかなかったような時代に変わってしまった。

年号が「平成」に変わり、成長し続けた日本経済が一気に冷え込み、大手企業の倒産に始まり金融機関さえもが経営の危機にさらされている現状は、殆どの人々が経験のない未知の出来事に翻弄されていると云っても過言ではない。
先祖代々の土地を手放さなければならなくなった人、土地神話に踊らされ多くの財産を失った人、それが原因で親族間の争いが起き家族の絆が壊れてしまった人。
事業が急激に膨張しバブル経済の崩壊によって、売上激減に対応しきれず倒産する中小企業、金融機関の統廃合により融資条件が変わり資金繰りに行き詰まる中小企業経営者も、何処にもぶつけようがないどうにも遣りきれない思いをもっている。

 
     
  悩みや苦しみは溜めない。早く吐き出すほど解決が早い。  
  税理士や友人のご紹介でご相談を受ける機会が多くなってきました。相談に来られた方々を振り返ってみると、問題解決がスムースに運びリスクが少なくて済んだ人々にはある傾向が見受けられるのです。
まずは女性経営者だ。女性社長からのご相談は、トラブル解決に決断をしなければならない状況になった時、ご自分なりの答えをすぐに意志決定できることだ。だから解決が早いしリスクも最小限で食い止められる。 次が、相続などの問題で相談に来られる65歳過ぎの高齢者だ。年金受給者という見方もできるのかも知れないが、とりわけ戦争体験のある方は欲が少ないのか順序立てて話を聴いている内にご自分自身である結論を導いておられる。
中でも困るのが現役の中小企業経営者だ。年齢で括るわけにはいかないが、ご自分の会社の実態が社会の変化を掴みきれないまま、旧態然としたマイペース・マネジメントにより問題を取引先のせいにしたうえ、自分の事業欲を貫徹するためには周囲の人を連帯保証人に巻き込んででも会社を続けたいと云う相談だ。そういう人の相談は、前述の女性や高齢者の場合の5〜10倍の時間がかかる。打開策も見いだせない儘「恩借り借金」を膨らませるなどは、夢ばかりを追いかけ「見栄を捨てきれない」としか思えないような言動がしばしば感じられるのです。
一番問題がある相談者は、訪ねて来られてほんの数時間の面談をしたままプツリと音信不通になる事例だ。 数時間の話だけの上澄み部分の情報だけで、そのご本人が判断し行動されているとしたら・・・・と考えると、ゾーっとするものを感じる。そのことをご紹介者にお伝えしたらいいものなのか…としばしば悩むが、守秘義務がある直接ご本人に連絡を取ってみるのだが居留守。むしろ、一番心配で頭から離れない相談者でもある。
相談者にはいろいろなケースがあるとしても、中小企業の社長の紹介でそんな人々の溜まり溜まったドロドロとした悩みを受け止めるのがリスク・カウンセラーの役割なのだと思っています。
 
     
  リスク・カウンセラーは平成時代の「汲み取り屋」・・・・  
  今の若者達には知らない人さえいると思うが、つい3〜40年前までは、東京でも当たり前のようにどこの家でも「汲み取り屋さん」が来てくれて、便所に溜まった家族が排泄した糞尿を持って行ってくれたものだ。衆説によると、汲み取る時に「色」や「臭気(香り)」でその家の様子が分かったそうだ。その話の真偽は定かではないが、日常の生活や事業経営の中で溜まっってしまった自分では処理しきれない本音の気持ちを、汲み取ってくれる人を必要としているようにも感じている。
私も、一時期は現代版「長屋のご隠居さん」と称し、様々なトラブルの「よろず相談所」と考えていたりしました。 しかし、この際だから云ってしまいましょう。
リスク・カウンセラーが引き受けている仕事は、平成時代の「汲み取り屋」と思っていただいて、大いに活用していただきたいと考えています。臭いものには蓋をせず「汲み取り屋」任せてみてはいかがでしょう。皆さんのお考えなども是非お聞かせていただければと思っております。