平成15年●月●日。
「大変なんです…。リスク・カウンセラーの出番です…!」親しくしていただいている会計事務所の先生から電話連絡があり、スケジュールを変更して急遽面会することになりました。
社歴15年。社長の年齢は自分と同世代。景気が悪く社員も減ったし…。売上げの低迷が続き、いよいよ月末の決済が出来ないのだという。
債権者は…親会社と下請け会社と金融機関。負債総額は約5億円。親会社が3億円。
下請け会社と金融機関が各1億円。金融機関からの借入の連帯保証人が気になった。永く取引していた取引先の社長であり友人としても親しくしていた人だという。保証債務は約7千万円になるという。その社長も保証人もそれぞれ自宅が担保に入っている。自分と同様に、その友人も破産するしかないだろう…と語る。
次に下請け会社に対する債務について聞いてみた。下請け業者は30社ほどある。中には2千万円を超える未払金がある下請け業者もあるようだ。ふと、この会社が倒産したらその下請け業者は一体どうなるのだろう…とそのXデーの時の状況が頭に浮かんできた。
「創立当初から取引してきたし、十分儲けさせてきたんだし…仕方ない…」
社長はあっさり躊躇いもなく云い放った。
確かに…私も社長たちにそのように云ったこともありましたが、それは、その社長が下請けや外注に迷惑を掛けるから…と悩み、なかなか決断できない社長に対して決断を促すときの言葉で…、今から債権者に迷惑を掛けようとしている社長が自ら口にする言葉ではないと思うのです。
…いま社長が云う言葉じゃ〜ぁないと思うけど……。
相談者が、私と会うまでに何人かの弁護士に相談してきた…というケースはよくあることですが、その社長もそうでした。相談した弁護士から
「とにかく…破産するにはお金が必要になるからのだから、とりあえず手元の現金は別にしておいた方が良い…」
と云われたので…
「500万円ぐらいは別にしてある…」
ということでした。
自己破産の申立てを委任する弁護士費用と裁判所に納付する予納金が必要になることは確かなのだが…何も…社員が同席している場でしゃ−しゃ−と云う言葉ではないと思って…私も少しムッとしてしまいました。
社員のことが気になったので…給料や解雇予告手当は支払えるのかと尋ねてみました。もう会社には殆ど現金がなく…売掛金が入金したら、外注費と社員の給料に充当して残りはゼロになってしまうとのことでした。やっぱり、解雇予告手当のことまで考えていないのか…。
社員が失業保険に加入しているのかどうかが気になったので確認すると、どうやらそれは大丈夫なようだったが、経理担当の社員とはいえ、こういった話は社員の前で話すべきことではないので、それ以上のことは云うのを止めてしまいました。 しかし… 「社長もずいぶん無神経ですね…」
と、私も思わず声に出てしまいました。 「社員の方も同席していらっしゃることだし…、社長と社員は利益相反と云って債務者と債権者の立場にある訳ですから…これ以上深い話はし難い…」…。そんな雰囲気だったので、奥さんのことが気になってしまったのです。
「それより、出来るだけ早く奥さんと2人だけで私の事務所に来ていただけませんか…?」
どうやらこの社長は、あれこれと友人などから聞きかじってきたことを参考にしながら密かに何かをやっている…と感じたからなのです。
この調子では後になって「詐害行為」で問題が出てくるのではないだろうか…。何処かの法律相談所で出会った弁護士が、基準報酬(目安)の半分で破産申立ての手続を依頼できるとのことらしいが…、こうした短絡的で思慮の浅い人には…それ以上あまり立ち入った話はしたくなかった…と云うのが本音のところでした。
だが、そんな無神経で身勝手な社長が破産するという心配よりも、やはり、私としては家族のことが気になって仕方がない。 「不渡りを出した事実上倒産となる日と、弁護士に委任したその後のことがどの様に展開していくのかを、これからどの様にすすんで行くかを情報として家族が知っているだけでも精神的に混乱も少なく…絶対に大きな違いがあるはず…。だから、家族と一緒に事務所に来て欲しい…」 と、ゆっくりとそのことを説明したが…どうやら社長の耳には届いていないようでした。それより…驚いたことに 「治まるまで家族を連れて何処かに行っていようか…」
と云う調子。 「あ〜ぁ…。社員の前でそんなこと云うなよ〜!。社長…少しは反省しろよ〜!」と声を大にして云いたかったが…この人には云ってみても無駄なこと…と言葉を呑んでいました
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