Xデーの会社を見届けた後、夕刻から始まったセミナーに参加。そして懇親会が終わって外に出るとそこには柔らかな黄色い灯りが…。舗道に連なるぼんぼりには朱文字で「みたままつり」と書かれ、靖国神社の方角へ導くように灯りが続いている。東京ではお盆だ。ふと…、自分の中に眠っていた懐かしい人を思い出す。 「♪〜貴様と俺とは同期の桜〜♪…」何気なく唇だけがうたっていた。 青年の頃、30s以上ある重いキスリングザックに厚手のテントを乗せて背負い、滑沢を抜け滝壺を登り尾根を縦走した登山仲間達とのこと。 山のように積んだ不良品を囲んで徹夜で手直しをした会社の同僚達とのこと。会社再生をかけて弁護士が裁判所へ提出するための再建計画資料を、徹夜で作成していた緊張の一週間を過ごした時の人々とのこと。 どの場面においても、同じ目的のために全員が気持ちを一つにし、黙々と作業に取り組んでいた。あのときの同胞のエネルギッシュに輝いていた顔を思い出す。いずれも懐かしい私にとっての「同期の桜」だ。リスク・カウンセラーの仕事に就いてからは、問題を抱えて相談にいらした方も一緒に問題解決を手助けしてくれた専門家の方々も、緊張する時間を共に体感したのだから正に関わったみんなが「同期の桜」の関係だ。 この日の出会いがなかったら、死をも選んでいたかも知れないと述懐してくれた年老いた経営者。 二つの大きなトランクを開き、涙を流しながら身の回りの物を詰め遠い地へと夜逃げの支度をしていたのだと打ち明けてくれた中年の経営者夫婦。 剛健だった社長が病に倒れ、会社の債務を整理しなければならなくなった遠い北陸に住む社長の家族達。 数えれば100人を超える。それぞれの相談者と、一緒に問題を解決するという明確な目的を果たすために時間を共有してきた。その問題の解決に取り組んできた当事者だけに感じられる100通りを超える関係者との「同期の桜」があるのかも知れない。
リスク・カウンセラーの事務所では、不動産関係の相談のときは「トラブルが発生した…!。何とかしなければ…!。原因は…?。関係者は…?。打つ手はあるのか…?。時間はあるのか…?。何から解決しよう…!。」と相談者の希望している事柄を聴くことから始まる。そして、早速、スクリーニング(見立て)を開始することになる。 中小零細企業の社長からの相談で多いのは経営の行き詰まりだ。「資金繰りが出来なくなった…!。何とかしなければ…!。再建の目処は立つのか…。社長は会社をいつまで続けたいと思っているのか…?。債権者は…?。債務額は…?。連帯保証人は誰か…?。社長や家族の健康状態は…?。」…と。そこで先ずはスクリーニングの為の関係資料を集め、その分析作業に取り組むことにする。そう…、。「同期の桜」の関係はこの時から始まっていた。 社長と家族に事務所に来ていただき、十数時間をかけてやがて決断の時を迎えることとなる。少しずつ重い口を開き、本当の本音の気持ちを話し始めて下さると問題解決の道が見えてくる。 焦点を結ばない虚ろな目でボーっと窓の外や天井を見つめ…、これまでの顛末を思い起こし自分の愚かさに気づき、悔しさや、どうなるかが見えない先の不安を涙ながらに語りはじめる。 お互いに携帯電話の番号を確認し合う。全体の段取りを話し合い、それぞれが作業に取りかかる。あくる日からは、一日に何度も携帯電話が鳴るようになる。一挙手一投足の動きが伝わってくる。早朝6時半だとか、帰宅後パソコンに向かって作業をしている11時過ぎに携帯電話が鳴ることもある。 作業の段取りについて追加や修正箇所に気がつき、移動中の自動車の中から社長に携帯電話をかけて微調整することもある。それぞれの視線から気がついた情報を交換する。そして、また練り直す。何度も何度も繰り返しながら…やがて全容がくっきりと見えてくる。資料を整理して…いざ弁護士事務所へ…と。第一段階の緊張を乗り超えられたときだ。 それからは法律家の所見にすべてを委ねることとし、弁護士が精査した結果の問題点を指示に従って修正。粛々と処理作業を終え最後の結論を待つこととなる。 今日、6年前に破産整理した会社の社長から電話があった。数週間前から、どうしているのかなぁ〜と思い出していた社長なのだ。頑張り屋の社長だったので「頑張りすぎて肩に力が入りすぎ身体を壊していないか…」とか「新たに就いた仕事はうまくいってるのかな…」と気になっていた社長からの電話だったので以心伝心ということなのだろうか。私にとって深く記憶に刻まれた「同期の桜」の一人だ。